2023/6/8
朗読の夕べ / しずかな火 終演に寄せて
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ずいぶんと報告が遅くなりましたが、無事終演いたしました
たった一度きりの夜のために脚本を書き下ろしてくださったひとみさん
会場や撮影のご協力をいただきましたイルボンさん
お集まりくださったみなさま、ありがとうございました
四月のあの夜から、もうひと月も経つというのに、
ふれかけたものについて、うまく言いあらわすことができない
はじまるまえも 夜をおえたあとも 小鬼のことをよくかんがえている
あなたがものがたりを読む
わらいごえをあげる
黙ってくちをひきむすぶ
ともに苦しみ
轟々とながれてゆく
わたしもものがたりの声のかたちをとってあなたを呼ぶ
ひとつながりの、ばらばらの、欠片になって降るようにふたりの
それぞれのものがたりを、それぞれの詩、それぞれのことばたちを読む
こんこんと湧きつづける清水、叩きつけるように降る雨水のことをおもいだす
隣から聞こえるはずの
聞いているはずの声がひどく遠くから聞こえる
小さな石、幾千年も光を待つ岩のようにかたく
この星そのもののような声だとおもう
またあなたに、あなたがたに会えますように
2022/9/3
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この土は火で、あの火は土 Water Soluble Oil Color 2022
染織りに明け暮れていると、色彩が身体のなかで燻ってゆくのがわかる
2022/5/23
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隠された地図をなぞるように過去の図案を読みほどいていると、
閃光のように解が、そしてよろこびと、あこがれとがちいさく旋回するようにやってくることがある
2022/1/17
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過去に読んだ書物の一節を憶えていて、自分のことばを交えながら話すことのできるひとにあこがれるように、まるでハンケチを翻すように鮮やかに、過去に観た映画の、たったひとつのシーンをおしえてくれるひとを眩しくおもう
かつて、呼吸も手放してスクリーンをみつめていたはずのわたしの、抽斗の底に残っているのはたしかに、ひかりをみたという記憶だけで、その、かすかな残響に耳を澄ますことしかできないのだから
2021/12/15
紙をさがす
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なめらかで均質なものより耳がふかふかとしていたり、でこぼことしたもの、繊維が漉きこまれたり、あわく色づいていたり野趣に富んでいるものがすきだ、
手にとって鈍く真珠色にひかる紙に惹きこまれ、吐息をこぼしながら値をみると手の届かない、よいものであったりする
骨董市へゆき、古裂を眺めるときも惹かれるものはぼんやりとひかってみえる
まえは真贋が判らないため、入手を躊躇うこともしばしばだったが、琴線に触れたなら、それを手にとればよいと考えられるようになってきた気がする
いつくしまれ、ひとの手によって生みだされた物に宿るなにものかをうつくしいと信じる
民藝、ということばへの、わたしなりのひとつの返答がそれなのかもしれない
2021/12/7
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On the way to school, I got beautiful crape myrtle branch from my neighbor.
朝、ゆきがけに分けていただいた百日紅の剪定枝
絢爛たる花の季節が終わり、ちいさな丸い実が鈴なりに
とおく離れた道端であっても、よく馴染んだ草木をみつけると声をあげてよろこびたくなってしまう
ひと枝もこぼさないようにそっと自転車を押す
そうして、わたしの内から、こぼれ落ちそうになっているものたちもそっと抱え、なんとか生を繋いでゆくのだ、
2021/10/21
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薄野原をゆく、髪も呼気も、ゆびさきまですべて、この秋に染められていく
2021/8/17
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はじめ思い浮かべた姿に向かって進んでゆくことと
すべてを即興でたゆたうように織ってゆくこと
先日展示した着物が前者なら、今回は後者の着物だ
わたしの着物、はわたし自身のたましいをかたちどるような行程だった
出来上がった着物が届いて、ふわりと肩から羽織ったとき、分身に守られているような感情が湧き上がった
或る親しい、だれかのための着物は織っているうちに、そのひとの姿や所作、眼差し、言語化するまえの感情が機のうえへ時々あらわれるので不思議だ
かつて、村々では農閑期に女たちが家族のために着物を織っていた生活があった
きっとそこにあった祈りのような感情、ひたひたとやってくるよろこびや哀しさもいまなら、ほんのすこしだけわかる気がする
まだ未知の、出会ったことのないあなたがたへの着物は、身にまとう衣服や布を織るときは、どのようなきもちを抱くのだろう
2021/3/4
さようなら、またいつか
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この間、とてもすきだった野原が土の山になっているのをみた
日毎に草花が移り変わり、動いている庭そのもののような、うつくしい野原だった
越してきたはじめての日、曇り空の下でしずかに咲いていた梅の木の姿も、さやさやと揺れていた竹林も、
燃えるようにひかっていた春はもうどこにもないのだった
かなしみと諦念とが同時にやってきて、数日はカメラを向けることができなかった
うつくしくかけがえのないものは、自分の手で守るよりほかないのだと改めておもった
はじめて共に過ごした一年が、野原にとっては最後の一年だったことを知り、一枚一枚、在りし日の写真を眺めている
手元にはただ僅かこの野原から分けてもらった烏野豌豆の染め糸だけが残り、その糸を少しだけ与って作るわたしの着物が機にかかっている
2021/1/9
まふゆの、水は清く冷たいがこころはあかるい
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夜叉五倍子の、どこまでも懐かしい金茶にいとかんばしき刈安のきんいろ
獣の毛並みのようだった糸がばらされ、どんどんと粒子になっていくさまをぼんやり眺める
雨、ひかり、すすき野原、降り落ちる花びらにまたたく走馬灯、そのどれでもなく、そのすべてでもあるよう
ひかり haruka nakamuraさんとLucaさんの未草のアルバムを聴きながら、部屋での作業を続けている
わたしが左手で糸を支え、右手で座車を回すときうまれてくる音とかれのピアノのペダルが踏まれる音、弦が擦れるときの音に彼女のささやき声との境界が薄れ、だんだんと混じりあってゆくような気がしたのだった
2020/12/9
この秋の、さまざまな瞬間を愛する
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2020/11/16
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ある夏の日、朝の陽が、大地の端端にそっと触れてゆくのをみた、
早苗も、わたしの額も、ふれられた場所から順々に淡く、発光してゆくようだった。
はじまりの布として、あまねくひかりさす布を、杼がふれ、通り過ぎるすべての場所にひかりが、色が射す布を織りたいと、そのとき思ったのだった。
初夏から、染めに明け暮れる日々が続き、そのなかですこしずつ染めていった梔子、茜、刈安、葛、玉葱そして山桜をつかった、
機のうえでは葛のやさしいさみどりが全体を貫くようにわたしを導き、梔子の黄がひかりそのものであることを知り、幾枚もの花びらがほころぶように、滲むように揺れる玉葱のやさしい赤茶を愛した。
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昨日は、織りあがった布を森へ連れていった。
うまれたての布が枝垂れ桜の枝のうえで、風に吹かれるのをみて、ひどくこうふくだった。
明日からは大地を、足もとに限りなくひろがり、続いてゆくひかりの道の帯を織ろうと思っている。
2020/4/21
西の地へ
![image0](https://harukanak.files.wordpress.com/2020/04/image0-e1587486092862.jpg?w=440)
うつくしい地に越してきてから、一度目の春を迎えた。
わざわいが触れるすべての場所に出かけてゆき、肩に触れたり、ことばを交わすことのできないさびしさ、それに、機や、生糸に触れられないくるしさとはうらはらに、天を仰ぎたくなるくらいほがらかに、日を追うごとにこの地は祝福に満たされてゆくため、救われるように日々を暮らしている。
これまで、わたしにとっての風とは、海を、遥か隔てた土地から束の間やってきて、この身を攫ってゆくようにつよく吹きすさび、なつかしい潮の香だけを残してそのまま、去っていってしまうものだった。
けれど春のはじめ、ちかくの山へ行ったわたしは、鳥のはばたきもなく静まりかえった森の中で、まだちいさな、どこかあどけない風がとおりすぎた場所の葉々だけがそよぎ、枝も身をかしげ、道がつくられてゆくのを目にしたのだった。
それからは、隣家の庭に植えられた年老いた桜の樹の枝を、畑の隅で全身を揺らす菜の花を、ひかりと一体になって波打つ池の水面を、それから空き地で青々と茂る野の草花たちをかろやかに揺らし走ってゆく風をみるたび、その風が、かの山でうまれ、ここまでやってきたということを、やがてはこの地を、すみずみまで揺らし満たしてゆくことを思い浮かべている、